ケニア「フェミサイドは国家危機」今年すでに30人超の死者

2月14日。各国がバレンタインデーに湧く中、ケニアの首都ナイロビでは人々が死者を偲んだ。今年に入ってから男性の手によって殺害された30人を超える女性たちである。

「ダークバレンタイン」として企画された追悼式は、ナイロビのほかケニア国内の6都市で開催された。運営団体は「女性が暴力の対象となり、愛する人によって殺される現実に目を向けてほしい」と話す。同団体はケニア政府に対して、フェミサイドをはじめとする女性への暴力を国家危機として認めること、それらに対処するための委員会の設立を求めている。

ケニア国内での報道を監視する機関によると、同国では2023年に女性を被害者とする殺人事件が少なくとも152件発生しているという。これは過去5年間で最も高い数値である。別の調査では、2017年から2024年の間に同様の事件が約500件発生しているという推測が出ている。女性の殺害件数に関し、ケニア政府は公式な記録を行っていない。

2013年、16歳の女性が男6人から集団強姦と暴力を受けた後、深さ3.5メートルのトイレに落とされた。女性は死亡。加害者には罰として数週間の芝刈りが命じられた。これに対し国内外から大規模な非難が起こり、後に加害者のうち3人に15年の禁固刑が下ることとなったが、加害者側の提訴により禁固刑は取り下げられた。

2016年、29歳の女性が交際相手から暴力を受け意識不明の状態で病院に運ばれた。女性の母親はすぐに警察に通報したが、警察からは加害者が国外へ逃亡したと伝えられた。事件が起きてから通報までに数時間も経っていなかった。女性の母親は、警察が逃亡に加担したのではないかと疑っている。

2021年、オリンピック出場経験を持つ陸上選手の女性が交際相手によって刺殺された。加害者は2年間の服役を経て裁判を控えていたが、模範囚としての減刑で2023年に釈放された。

女性が配偶者や交際相手によって殺される事件はメディアで扇状的に報じられ、被害者が非難される傾向にある。調査機関 Africa Data Hub によると、ケニア国内で女性が殺害された事件の加害者は2/3が被害者の夫か交際相手である。しかしケニア政府は女性に対して「知らない人と会わないように」といったアドバイスをするばかりだ。

男女間の暴力は刑事事件にすることが難しい。第一に、すべての被害者が自らの権利について法的な知識を持っているわけではない。第二に、警察は近親者間の暴力事件を捜査をしないことがある。第三に、裁判に行き着くまでには相当な金銭が必要となる。性暴力を受けた人が被害届を提出する場合、医師から身体検査を受けて、暴力を受けたことを証明する書面を手に入れなければならない。証明書は高額であるため、多くの被害者は届出を諦めるという。警察署や病院をなん度も往復する時間的・身体的・精神的な負担も忘れてはならない。

蔓延する女性への暴力について、ナイロビに拠点を置く支援団体は「男性優位的な考えが構造的な男女格差と合わさって暴力の土壌を作っている」と指摘する。ケニアでは今年1月にそれぞれ20歳と26歳の女性が男によって殺害・死体損壊される事件が起きているが、被害者の責任を問う声は少なくなかった。なぜ男と会ったのか。なぜ男と部屋に入ったのか。こうした非難が主に男性から寄せられたという。「ケニアでは夫が妻を躾けるという考えがある。中には夫からの教育を愛情表現として捉える人もいる」と前述の支援団体は話す。

ケニアは男女間の暴力に関する国際条約に調印しており、国内の法律でも女性に対する暴力を犯罪だと定めている。しかしこれらの政策が実社会に影響を与えているとは言い難い。

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