香港で家政婦として働いていたネパール系インド人女性が性的暴行を受けたとして雇用主を起訴、2年の期間を経て先月、加害者に有罪判決が下された。
加害者は35歳のスウェーデン人会社経営者。女性に対する強姦罪が認められているが、行為は女性が金目当てで持ちかけたものだと主張。さらに、躁うつ病を患っているとして減刑を求めている。なお、加害者の妻と3人の子供は日本に移住したと報じられている。
香港で家政婦として働く外国人は363,576人(2024年8月末時点)。香港の全人口のおよそ5%である。そのうち56%がフィリピン、42%がインドネシアの出身だ。2016年に香港の非営利団体が行った調査では、こうした外国人家政婦のうち66%が雇用主から何らかの搾取行為、18%が身体的な暴力を受けていると答えている。また、コロナウイルスによるロックダウンがあった2020年には、外国人家政婦に対する性的暴力と性的嫌がらせが3倍に増加した。
香港で外国人家政婦に対する搾取や暴力が横行していることは公然の事実だ。2015年、香港人女性がインドネシア人家政婦に度重なる暴行を加えていたとして禁固6年の判決を受けた。加害者は被害者の口を掃除機で吸う、真冬に冷水を浴びせるなどの暴力を繰り返していた。被害者は「口外したら両親を殺す」として口止めされていたが、帰国させられるところを別のインドネシア人が空港で見かけたことで事件が明らかになった。しかし、このように加害者が法律で裁かれることは稀である。
問題は外国人家政婦の立場がそもそも極めて脆弱であること、香港の法律が労働者に対して非常に厳しいこと、そしてこれらの状況が外国人家政婦に対する雇用主の不適切行為を助長していることだ。
外国人が家政婦として働く主な理由は家族を養うためである。前述の調査によると、労働者の8割以上は自国の斡旋業者を通して仕事を得るが、多くの場合ブローカーやエージェントから訓練費や紹介料として借金をしている。香港で働く外国人家政婦のうち3割以上は「他の仕事も同じだから」「借金があるから」「斡旋業者がパスポートを持っているから」などの理由で仕事を辞められないと答えている。
香港の外国人家政婦に関する法律で特徴的なのは、住み込み制度と2週間ルールである。香港では外国人家政婦は職場、つまり雇用主の家に住み込みで就労しなければならない。居住環境の規定はなく、雇用主は労働者が生活する部屋や施設について管理局に報告する義務がある。しかし当局による監査や視察などは行われない。この住み込み制度によって生じるのは、労働時間の境界が曖昧になることでの長時間労働、契約により住居と食事が確保されることでの力関係、そして逃げ場のない監視だ。
さらに「2週間ルール」があることで、外国人家政婦は雇用主から暴力や嫌がらせを受けたとしても容易に声を上げることができない。この規則は政府が労働者の転職を防ぐことを目的として定めたもので、香港で働く外国人家政婦は契約終了日から14日以内に帰国することが義務付けられている。帰国に関する費用は全額雇用主の負担であり、労働者は自身の経済状態に関わらず帰国しなければならない。香港で家政婦として働く女性の中には保守的な文化圏から来た人も多い。汚名と借金を背負って帰国させられるよりは我慢するという人もいるだろう。
冒頭に述べた事件の求刑は11月に決まる。香港では強姦罪に終身刑が適用される可能性がある。判決は何らかの抑止になるだろうか。
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