AI生成によって作られた女性モデル、いわゆる「AI彼女」との仮想交際が人気を集めている。
パナマとシンガポールに事業登録をする LushAI は、世界初のAIモデル事務所を自称するスタートアップだ。同社はAIによる画像と音声生成などを用いて女性モデルを制作、その写真や動画へのアクセス、およびテキストチャットのサービスを有償で提供している。
AI生成の技術が進化し、より人間らしい表現が可能になったこと、そして孤独な男性が急増していることが、事業を始めたきっかけだと Lush AI の創設者は言う。同社が競合として意識するのは、個人のポルノコンテンツ配信者が多数登録する会員制オンラインプラットフォーム「OnlyFans」だ。
「彼女がいない男性の需要は非常に高く、それでいて未だ開拓されていない。(OnlyFansでは)一人の女性の写真や動画を撮影したり、チャットしたりするのに10〜20万ドルもの値段がついている。しかしあと数年もすれば、AIが需要を満たすようになり、業界を支配することになるだろう」
同氏によると、オンライン上で性的なコンテンツを売る女性と、AI彼女の間に根本的な違いはないという。「オンラインで人間を見ているとしても、それは生身の人間ではなく、デジタル化された人間のイメージを見ているに過ぎない」というのがその理由だ。
市場調査機関 CB Insights の調査によると、2022年のAI彼女市場への投資額は299万ドル。現在、Google社の元社員2名が開発したチャットボット Character.AI には10億ドルの価値がつけられている。また、OpenAI社のGPTストアには、恋人のような受け答えができるようにカスタマイズされたチャットボットが販売されている。ラインナップは「支配的な彼女」「魅力的で優しい彼女」「怒っていて嫌味な、だけど昔を思い出す元カノ」など様々だ。
しかしこうした事業に対し、企業はまず負うべき責任を明確にするべきである。そのひとつが、AIモデルの生成に伴う著作権と肖像権の侵害だ。EU連合は今年3月に既存の条例をデータプライバシーに適用するAI法(Artificial Intelligence Act)を定め、AI生成へのデータ利用を規制している。また、米国では、AI生成における権利侵害について Google や OpenAI を巻き込んだ議論が行われている。AI生成技術の活用をめぐって各国で法的整備が行われる中、規制が厳しい米国・EU圏外に事業拠点を置く企業も出てきている。前述の LushAI もそのひとつだ。
米国では、1990年から2021年の間に「親しい友人がいない」と感じる男性の数が5倍に増えた。調査を行った機関は「男らしさ」「男性はこうあるべき」といった伝統的な価値観が男性の孤独を生んでいると指摘するが、孤独の要因は決して社会的規範や伝統的価値観といった外的要素だけではないだろう。
「大学サッカーチームのエースがいるとしよう。彼にとって、チアリーダーをめぐる競争相手はもはや地元の男子だけではない。莫大な財産を持ったアラブの王子がチアリーダーにDMを送って、24時間以内に国へ呼び寄せることもできるのだ。サッカーチームのエースはそれでも他の相手を見つけられるかもしれないが、その他大勢の男性にはそれができない」
前述の LushAI の創設者は言う。
AI彼女は孤独な男性の受け皿となり得る。しかし、現実を直視せず仮想空間に女性への理想を求めることは、むしろ孤独を深める結果にならないだろうか。