フェミサイドという言葉をご存じでしょうか。女性を意味する接頭辞「フェミ」と殺人を意味する「ホミサイド」を合わせた造語で、女性であることを理由とした殺人を定義する言葉です。日本語では「女性嫌悪殺人」と表されることがありますが、一般的に浸透した訳語はまだないように感じます。
フェミサイドの根本原因は性差の持つ役割に関する固定概念、女性差別、社会における男女格差です。こうした規範や概念があることにより女性に対し「こうあるべき」という期待が生まれ、そこから逸脱した行動をする女性への不安や反発が暴力となって現れると考えられます。
多くの場合、女性を殺すのは配偶者や交際相手といった親しい人物です。2022年に配偶者などの家族によって命を奪われた女性は世界全体で48,800人、過去最多の人数でした。
家族あるいは交際相手によって殺された女性
- アフリカ 20,000人
- アジア 18,400人
- アメリカ 7,900人
- ヨーロッパ 2,300人
- オセアニア 200人
100,000人毎の人口比
- アフリカ 2.8人
- アメリカ 1.5人
- オセアニア 1.1人
- アジア 0.8人
- ヨーロッパ 0.6人
出典 Five essential facts to know about femicide, UN WOMEN 2023
統計に表れているのはあくまで一部の事案です。また、女性を被害者とする殺人事件の10件に4件は十分な情報がないため動機を特定できないと調査団体は報告しています。
女性を殺すのは親しい人物からの暴力だけではありません。見知らぬ人物からの性暴力、その他犯罪行為、さらには女性器切除(FGM)や名誉殺人(Honour Killing)といった性差別的かつ極めて有害な社会的慣行が世界各地で女性を死に至らしめています。
司法制度の上でも女性は不利な立場にあります。イギリスでは女性の殺害に関わったとされる男性の3割が神経衰弱などを理由に裁判を免除。中央アジア・キルギスでは近親者による暴力が裁判に発展するのは全体のわずか2%。米国は2022年から各州で人口中絶を禁止。若年者が暴行によって妊娠したとしても、命をかけて出産しなくてはなりません。
「フェミサイドは感情のもつれではない。力による犯罪だ」
今年11月に妹を元交際相手によって殺されたイタリア人女性は言います。イタリアはEU加盟国の中でもフェミサイドの発生率が高く、平均にして3日に1人の女性が殺されています。事件を受けてイタリア政府は学校での黙祷を求めましたが、被害者の姉はこれに反対し、必要なのは性教育・情緒教育の普及と支援団体への公的資金だと訴えました。
女性は女性であるというだけでさまざまな暴力の対象になります。もし性差別的な行動を目にしたら、決して看過しないでください。現状を変えていくのは、私たち全員にとっての課題です。