かつて欧米が「インドで最も安全な都市」と呼んだカルナータカ州・ベンガルール。インドのシリコンバレーとも称される国内IT産業の中心地であり、穏やかで涼しい気候で知られる庭園都市でもある。そのベンガルールの治安が変わった。3年ほど前から、女性を被害者とする殺害事件が増えているのだ。
2023年8月、同棲中の女性と口論の末、圧力釜で撲殺したとしてケララ州出身の男が逮捕された。2024年7月、24歳の女性が宿泊していた施設で刺殺され、後日女性の元交際相手が逮捕された。2024年9月、マンションの一室から異臭がすると住民が通報。冷蔵庫からバラバラにされた女性の遺体が見つかった。容疑者は女性の元交際相手で、実家があるオリッサ州へ逃亡・自殺したと報じられている。
「近年、ベンガルールで恋愛感情のもつれから、男性が交際していた女性を殺害する事件が増えている」とベンガルール中央捜査局の高官は言う。カルナータカ州内で交際相手もしくは過去の交際相手によって殺された女性の人数は、2022年が20人、2023年が41人。今年は8月までに記録されているだけでも、すでに23人が被害に遭っている。これら被害者の多くに共通するのは、他州からの移住者であることと、経済的に自立している若い女性であるということだ。
過去20年間にインド国内で起きた交際相手による女性の殺人事件を取材、2023年に『Crimes of Passion: When Desire Turns Deadly 』を発行したジャーナリスト Gerard De Souza は、カルナータカ州の状況について以下のように語る。
「2020年から2021年にかけて調査をしましたが、ベンガルールで起きた事件はひとつも見つかりませんでした。しかし今ではネットで検察をかけるだけで、夥しい数の殺人事件が見つかります」
女性が交際相手や同棲相手に殺される事件に対し、国内の政治家は働く女性の増加が原因だと主張し、こうした女性は「欧米的価値観に影響されて、考え方が自由になりすぎている」と言う。また、警察も、結婚をする前に同居生活をするカップルについて「早すぎる」と非難している。女性に対する残忍な犯罪はベンガルールの社会の一部になりつつあるが、政治家や警察といった権力者は女性を守るどころか責任をなすりつけ、犯罪を助長している。
「デリーはインドの強姦都市と言われていますが、女性の安全に関してはカルナータカ州も大差はありません」。ケンブリッジ大学でジェンダーとセクシュアリティを研究する Shannon Philip 助教は言う。「犯罪の原因は恋愛感情ではありません。有害な男らしさ(Toxic Masculinity)です」。
労働者の移動は流動的になり、地方から大都市に働きにくる若者が増えた。彼らは教育を受け、国外の文化や情報も知り、人生に対する考え方も柔軟になってきているだろう。未だ見合い結婚が一般的なインドで、自由恋愛や同棲をするのも新しい選択と言える。
交際相手を殺害した男は言う。
「彼女が浮気をしていると思った」
「彼女が結婚をしたがらない」
「彼女が自分より仕事を優先する」
事実を受け入れられない彼らは暴力に訴えた。自分には他人を支配する権利があると、何の根拠もなく信じきる。その自信は、何世代にも渡って男性の心に深く、複雑に根付いているようである。