ブレストアイロン(胸アイロン)アフリカに伝わる胸潰しの慣習

ブレストアイロン、あるいは胸アイロンという慣習をご存知だろうか。少女の胸(breast = ブレスト)を、熱した石や棒などを使って平たくする文化的慣習である。英語では Breast Ironing または Breast Flattening という。

ブレストアイロンはカメルーンで伝統的に行われ、ナイジェリア、ケニア、トーゴといったサブサハラ・アフリカ地域でも広く慣習化している。この慣習は海外のアフリカ人コミュニティの間でも受け継がれ、北米やイギリスからも事例が報告されている。現在、ブレストアイロンの処置を受けた女性は世界におよそ380万人いるとされている。

目的は少女を男性の性的関心から守ることだ。したがって第二次性徴期を迎える年代が主な対象となり、早い場合は9歳で行うこともある。処置に使う道具は石やハンマーなどの硬い物体のほか、鍋やヘラの料理道具、電気アイロンなど。これらの道具を熱し、少女の胸を圧迫、殴打、摩擦することで、膨らみかけた胸を目立たなくするのだ。経済的に恵まれた家庭では、硬い道具による圧迫などの代わりに、胸にゴムベルトを巻き付けて成長を遅らせることもある。なお、ブレストアイロンと宗教、民族、貧富、教育との相関はない。

胸を平らにする過程は女性たちの間で内密に行われる。娘の母親が処置を行うのが最も一般的で、全体の58%を占める。そのほか、助産婦やシャーマンなどが金銭と引き換えに行うこともある。いずれにしても、男性が関わることはない。父親は娘がブレストアイロンを経験したことに気づかないことがほとんどだという。

母親は娘の「女性としての魅力を損なう」ことで、男からの性的嫌がらせ、性暴力、誘拐、強制結婚などを防ぎ、学業に専念させることができると考える。しかし、この行為に性的行動の抑止としての意味はほとんどない。なぜなら胸があろうとなかろうと、男性は少女に危害を加えるからだ。ブレストアイロンが行われている地域では、少女と女性が高い頻度で性的嫌がらせ、性暴力、性感染症の危険に晒されていることが統計によって明らかにされている。それどころか、ブレストアイロンが与えた影響によって学業を断念する少女もいる。

ブレストアイロンは少女の身体と精神を長期にわたって傷つけ、彼女たちの社会的・経済的立場を脆弱にする。胸の圧迫や殴打が引き起こす症状は癌、腫瘍、感染症、高熱、乳房の組織破壊、授乳困難、乳房の変形ないし欠損など、さまざまで深刻だ。加えて、こうした身体的変化を原因とする自尊心の低下、羞恥心、不安、自信の喪失、人間不信など精神面での影響もある。

少女を守ることを名目に女性の心身を破壊する。ブレストアイロンの本当の目的は、女性の身体を支配し社会的行動を制限すること、家族の名誉を守ること、そして男女の役割や社会関係に関する文化的理想を保つことではないだろうか。

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