トランスジェンダーに女性の権利はあるのか 豪州で裁判

オーストラリアで女性専用アプリの利用を拒否されたトランスジェンダーの女性が、運営者を相手に訴訟を起こした。

アプリは「Giggle for Girls」(giggleは「クスクス笑う」という意味)という名称で、オーストラリア人女性が個人で開発・運営をしている。利用者はシスジェンダー、つまり生まれついた性別と心の性が一致する人に限られており、AI顔認証によって利用申請する人の性別を判断している。AI顔認証の正確性は94%。女性と判定され登録した男性については、運営者が手動で削除している。

訴訟を起こしたトランスジェンダーの女性はAI顔認証で女性とみなされアプリに登録。それから6ヶ月後に運営者によってアカウントを発見・削除された。同氏は「自分が女性向けのサービスを利用することは法的に認められた権利であり、利用の拒否は性自認に基づく差別だ」と主張し、運営者の行為はオーストラリアの差別禁止法に違反するとして運営者に対し20万豪ドル(約2000万円)の慰謝料を求めている。同氏は女性器形成手術を受け、出生証明書上の性別を女性に変更した元男性である。

オーストラリアでは、2013年に性的指向と性自認(自分が男性なのか女性なのかという認識)による差別が差別禁止法の対象に追加された。そのため、同性愛者やトランスジェンダーであることを理由とした差別は法律上禁止されている。ジムやクラブといった物理的な施設であれば利用規約に則って運営者が利用者を選ぶことはできるが、アプリのようなデジタル空間はグレーゾーンにある。

アプリの運営者は元脚本家のオーストラリア人女性。SNSで男性から執拗な嫌がらせを受けた経験から、「スマホに女性だけの安全な場所を作りたい」として約5000万円の開発費をかけてアプリを作った。そのような場所にトランスジェンダーの女性を含めるべきではないというのが彼女の考えである。しかしながら、裁判にあたり弁護士費用をクラウドファンディングで募ろうとしたところ、既存のプラットフォームのほとんどが彼女の申請を拒否したという。

ここ数年でLGBTQコミュニティに対する一般認知が急速に高まったことにより、多くの企業や組織がトランスジェンダーの権利を支援する動きにある。しかしすべてが好意的に受け止められてるわけではなく、公共施設の利用などをめぐっては一般から懸念の声が上がっている。本件に対しトランスジェンダー擁護派は「トランスジェンダーの女性を生物学的な女性と同じように扱うべきだ」と訴えるが、そもそもなぜ女性を男性と分けるべきなのかという問題について双方が納得できるような議論はされていない。

本件でアプリの運営者を擁護する女性の権利活動家は次のように述べる。「性別より性自認が優先されて、女性の権利が奪われている。皺寄せがいくのは社会的、経済的に弱い立場にある女性だ。今までずっと、理にかなったルールのもと私たちの権利は守られているのだと思っていた。しかしこの3、4年で、私たちに権利などないことがわかった。女性だけの空間がどこにもないのだから」

オーストラリア最大のトランスジェンダー活動家のグループは、本件に対するコメントを拒否している。

補足:メディアによる報道の違いについて

トランスジェンダーに関する話題はメディアによって扱い方が大きく異なる場合がある。今回ソースとした媒体のうち、英国の左派新聞The Guardianは問題の事実関係よりもアプリ開発者のトランスジェンダー否定発言ばかり取り上げている印象。一方、中東メデイアのAl Jazeeraは中立〜ややトランスジェンダー否定寄りに見える。同紙には、以前The Guardianでトランスジェンダーに対し否定的な記事を書いてバンされたジュリー・ビンデルがよくコラムを寄稿している。オーストラリア国内のLGB系メディアはアプリ開発者を擁護する動き。記事によると、アプリはバイセクシャルやレズビアンの女性たちの拠り所にもなっていたようだ。

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