労働者の不当な扱いをうけ、紅茶メーカー大手各社が茶葉の原産国であるスリランカで労働環境の調査を行なっています。認証機関のフェアトレードおよびレインフォレスト・アライアンスも調査を実施。搾取の実態が明らかになっています。
スリランカの茶園は中央部の高山地帯に集中しており、そこではおよそ30万人が茶葉摘みに従事しています。紅茶用茶葉の輸出はスリランカを代表する産業のひとつとして、2022年には1兆 790億ポンドの輸出総額を記録しています。
現在スリランカは1948年にイギリス領から独立して以来最悪の財政危機に陥っています。理由は2021年にスリランカ政府が化学肥料の使用を禁止したこと。スリランカの主要産業は茶葉に加えて米や野菜といった農作物の生産です。禁止にあたり農業従事者への周知や対策は行われませんでした。そのため労働者の多くは従来の栽培方法から有機栽培に切り替える物的・金銭的・技能的な余裕が与えられなかったと考えられます。
突然の化学肥料禁止の結果、茶園の規模は大幅に縮小。昨年の茶葉生産量は26年ぶりの最低値を記録しています。また、スリランカルピーの価値が下落したことにより労働者の賃金も下がっています。労働者が1,000スリランカルピー(日本円にしておよそ460円)を得るには、1日18キロ以上の茶葉を摘む必要があります。
茶園を管理するのはスリランカ政府から土地を賃借している企業。茶葉を摘む人の多くはイギリス植民地下で南インドから移住してきた契約労働者の子孫にあたります。労働者は現在も植民地時代にイギリス人が建てた家屋に住んでおり、水道やトイレなどの設備がない環境で生活する人もいます。これらの建物を所有するのは労働者ではなく茶園の管理者です。
人里離れた茶園で生活する労働者は日用品を管理者からの配給に頼らざるを得ない状況にあります。使った分は給与から天引きされ、受け取る額が半額になる場合もあるとのこと。こういった雇用環境に加えて、高山地帯での労働には害虫や野生動物による危険もあります。早く茶葉を摘もうとするあまり足元のヒルに気づかず怪我をしたというような事例が後を絶ちません。
紅茶産業の労働者搾取に対し、スリランカの担当大臣は状況の改善に国連やトレード認証団体といった国際機関からの協力が不可欠と述べています。また現状を「搾取の極み」と表現した上で、外国の機関から資金提供を得るために実態を隠蔽する茶園があるとも指摘。今後も労働者の待遇改善のための活動を続ける姿勢を示しています。
構造的な搾取が行われている以上、労働者の不当な扱いを是正するには茶葉産業自体の解体が必要なようにも思えます。企業の利益のために一般人が犠牲になる仕組みほど巧妙に作られたものはありません。