英国サウス・ヨークシャーの都市ロザラムで、1997年から2013年の間に1,400人もの児童がパキスタン系移民を主とする加害者から性的虐待および搾取を受けた。警察や自治体は事件を知っていたが、加害者の大半を単一の民族が占めていたことから、人種差別問題となることを恐れて対処をせずにいた。人種問題と児童の安全を秤にかけた結果、脆弱な子供を騙し、強姦し、金儲けに利用する集団を野放しにすることを選んだのである。
この事件はロザラム児童性的搾取事件として英国内外で報道された。近年日本でも急速に知られることとなった「グルーミング犯罪」の先駆けである。
グルーミング犯罪について、ロンドン警視庁のホームページは以下のように定義している。
「搾取あるいは利用を目的として子供、未成年、成人と関係を築くこと。搾取は性的あるいは経済的なものが主だが、その他の違法行為も含む」
ロザラム児童性的搾取事件は例外ではない。グレーター・マンチェスターのロッチデールでは、2000年代初期に特定の民族の男性からなる犯罪集団が、労働者階級の白人少女をグルーミング、誘拐、性的に虐待する事件が相次いだ。2024年1月に発表された本件の調査報告が、長期的かつ広範囲に行われていた未成年者の性的搾取事件を、当時の警察や自治体がいかに看過していたかを明らかにしている。
2007年、グレーター・マンチェスター警察とロッチデール地方議会は、組織犯罪の集団がロッチデールで未成年者の性的搾取と、彼女らを利用した薬物取引を行っているとの通報を受けた。少なくとも11人の未成年者が「アジア人男性」(原文ママ)から性的な搾取を受けていることがわかっていたが、刑事1名による小規模な捜査が行われただけで、誰も起訴されなかった。
2008年、ロッチデールの飲食店で器物破損行為をしたとして少女が逮捕された。少女は店の従業員から性的暴行を受けていることを訴えた。また、ある少女は自身が被害を受けたほか、同じ集団が別の少女を性的に搾取するのを目撃したと訴えている。
ロッチデールでは2008年から2009年の間に少なくとも30名の成人加害者による未成年者の性的搾取が特定されていたが、加害者は起訴されていない。検察当局は被害者に対し、法医学的証拠が疑わしく信用できないと判断している。
2010年にこれらのグルーミング犯罪は再調査され、2012年に9人の男が有罪となった。検察当局とグレーター・マンチェスター警察は適切に対応しなかったことを謝罪している。
しかしながら、再調査によって摘発された加害者はほんの一握りと言える。例えば、再調査が行われている間に被害者の1人から6ヶ月間に及ぶ性的虐待の証拠記録が提出されたが、グレーター・マンチェスター警察は取り合わなった。それどころか、検察当局と警察はこの被害者少女を未成年の売春斡旋の共謀者として起訴したのである。これは被害者少女に法廷で有効な証言をさせるための法的戦略だったとされているが、そのことは少女本人に知らされていなかった。2013年にグレーター・マンチェスター警察が特定していた性的搾取の被害者は約260名である。
英国の新聞媒体に初めて一連の事件に関する調査が掲載されたのは2007年のことである。サンデー・タイムズ・マガジンに記事を書いたジャーナリストでフェミニスト活動家のジュリー・ビンデルによると、容疑者の大半がパキスタン系移民だったことから、掲載にあたり複数の編集者が人種差別に関する懸念を示したという。ビンデルは言う、「問題は移民ではなく、特定の民族や宗教に属する人たちでもない。社会で最も脆弱な存在を守る責務にある者の無能ぶり、そして被害者の希望を奪うように作られた刑事司法制度が問題なのである」。