米国ニューヨークのギリシャ領事館に飾られていた現在アートが撤去されたのは昨年12月のことである。
撤去されたのはニューヨーク在住のギリシャ人女性アーティスト、Georgia Lale の「Neighbourhood Guilt」。ピンクや赤のベッドシーツを繋ぎ合わせてギリシャ国旗に見立てた作品だ。
作品はギリシャ国内で急増するフェミサイド(Femicide, 女性であることを理由とした殺人)への啓蒙として、ギリシャに住む女性たちから寄付されたベッドシーツを使って作られた。
作者は以下のように話す。「犠牲となった女性たちに共通点はないかもしれません。しかし彼女たちはみな絶望し、震えながらベッドの上にいました。近親者から暴力を受ける人にとって、家庭は安全な場所ではありません。むしろ、最も脆弱で、孤独で、危険にさらされた環境です。フェミサイドの被害者のほとんどは寝室など、自宅で殺されています。女性たちは新しい朝を迎えるはずだったベッドで人生を終えました。涙を拭い、夢に浸るはずのシーツが血で染まったのです」
作品はギリシャ領事館に設置された数日後にギリシャ外相の指示により撤去された。右派政党が議会で作品を問題視したからである。報道によると、右派政党は「神聖な国旗を侮辱するとは何事か。国旗の色が変わっていいのは、旗が英雄の血で染まるときだけだ」と批判したという。ギリシャ外相は「国家施設は中立であるべき」との見解を示している。
撤去が行われた月、ギリシャでは女性が母親宅で交際相手によって銃殺されている。
ギリシャでは今年に入ってから女性が当時ないし過去の交際相手によって殺害される事件が5件起きている。ギリシャ政府が発表した資料によると、こうした事件は過去10年で4倍に増えている(2012年6件に対し2022年24件)。なお、警察が発表した統計では、女性に対する暴力は同期間で1,600件から10,000件以上に増えている。
今年4月には北アテネ県に住む28歳の女性が元交際相手によって警察署の前で刺殺される事件が起きた。女性は元交際相手が自宅周辺をうろついていたことを相談しに交番を訪れ、帰宅しようとしたところを襲われた。女性は以前に元交際相手からの被害を警察に申し立てており、殺害された当日は自宅まで警官が同行するよう求めていた。報道によると、警察は女性に同行せず、代わりに警察のホットラインに電話するように伝えたという。女性が電話をかけたところ、「パトカーはタクシーではない」と言われたとのことだった。女性が殺されたのはそれから間も無くのことである。
ギリシャの Kyriakos Mitsotakis 首相は警察当局への批判に対し「問題のすべてがトップにあるわけではない」と反論している。
ジェンダー平等の専門家で社会科学者の Anna Vouyioukas は以下のように述べる。「フェミサイドの根本に制度的な暴力があることは明らか。国は女性を守らない。地域社会、家族、職場、公共の場、そして警察署の近くにさえも女性にとって安全な環境を作っていない。フェミサイドはジェンダー差別と権力の不均衡に基づく犯罪だ」
娘を交際相手によって殺害された女性は「男性には若いうちから、他人を所有する権利は誰にもないと教え込むべきだ」と言う。また、近親者からの暴力によって娘や姉妹を亡くした遺族の団体は、加害者への終身刑を求めている。遺族のひとりは言う。「終身刑を与えられたのは(亡くなった)女性自身、そして彼女たちなしで生きていくことを強いられた遺族だ」
Sources
https://www.hurriyetdailynews.com/greek-removal-of-femicide-artwork-in-us-draws-fire-188882