カザフスタン元経済大臣が妻を殺害 国内外で波紋拡がる

昨年11月、カザフスタン最大の都市アルマテイにあるレストランのVIPルームで女性が殺害された。加害者は女性の夫であり、カザフスタンの経済大臣を務めた人物である。

監視カメラが記録した映像によると、加害者は女性に対し執拗な暴行を加えたのち、髪の毛を掴んで監視カメラのない部屋へ女性を引きずっていった。女性は脳損傷で死亡した。加害者は女性が暴行によって死亡したことを認めているが、殺害する意図はなかったとしている。裁判は現在進行中で、法廷の様子がSNSで生配信されている。

加害者が経済大臣を務めたのは2016年。その後収賄の罪で10年の禁固刑を命じられたが、当時のカザフスタン大統領の恩赦によって1年の服役後に釈放されている。なお、加害者が妻である女性に対し日常的に身体的・精神的暴力を振るっていたことは周知の事実だった。女性は何度か離婚を試みたようだが実現せず、今回の事件に至っている。

カザフスタンでは、毎年少なくとも400人の女性が配偶者や交際相手からの暴力によって死亡している(国連調べ)。しかし社会には女性を軽視する風潮が根強い。裁判に毎日出席しているという被害者のきょうだいは、「法廷で加害者の弁護団は家族を侮辱し、酒を飲んだのは彼女の責任だと言う。そんなことを聞くのは本当に辛い」と話す。

本件を受けて、カザフスタン国内では家庭内暴力の厳罰化を求める署名活動が行われた。その結果、政府は今年4月に新しい法律を制定し、これまで民事でしか扱わなかった女性と子供に対する暴力に懲役刑を科すことを決めた。加えて、家庭内暴力が疑われる事案は被害者による届出の有無に関わらず警察の捜査が義務付けられることになった。

しかしカザフスタンで女性の権利活動を行う団体は、新法を「国民を黙らせるための、社会に対する譲歩」に過ぎないと言う。「私たちが期待していたことと、政府が決定したことは明らかに違う。女性と子供の権利が法的に保護されていない。これは家庭内暴力によって命を失った女性や傷ついた子供を愚弄する結果だと思う」

新法へは男性の政治家から「暴力を振るった夫を独房に入れるなら、挑発した妻も収監しろ」「カザフスタンでは男性に十分な人権がないから、男性のためだけの法律を作れ」といった声が上がっている。

裁判の様子を伝える動画には、カザフスタンのみならずロシア、アルメニア、ベラルーシといった周辺国からもコメントが寄せられている。その中でも特に反響が大きいのがロシアだ。

ロシアは2017年に特定の家庭内暴力を処罰の対象から外す決定を下した。配偶者および子供を殴った場合は2週間の禁固刑、軽傷だった場合と暴力の頻度が年に1回だった場合は罰金刑となる。2021年にロシア国内のNGOが発表した統計によると、2011年から2019年までにロシアではおよそ1万人の女性が配偶者ないし交際相手によって殺害されたという。

法律はあくまで抑止にしかならない。変えなくてはいけないのは、女性をこのように扱う文化だ。夫は妻を殺してはいけない。法廷で死者を侮辱してはいけない。言葉にすると、なんと馬鹿げて聞こえることだろうか。

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