インド・西ベンガル州 性暴力事件はなぜ続く

インド北部、西ベンガル州で性暴力事件が相次いでいる。今年1月、バングラデシュとの国境に程近い村で地元議員が土地を押収、側近らと共に複数の女性を強姦した。同地域では6月にも、インド人民党の女性職員が服を脱がされ暴行を加えられる事件が起きた。そして先月には州都コルカタ(旧カルカッタ)で女性研修医が勤務中の病棟で強姦・殺害される事件が起きたばかりである。

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性暴力事件がなくならない理由のひとつには、西ベンガル州、そしてインドの大部分で未だ続く文化的・社会的態度がある。家父長制に基づく男性中心主義と、被害者の声を掻き消し、黙らせ、非難する風潮だ。こうした社会では女性の地位が低く、暴力的な男らしさが容認される。性暴力はあって当然のものとされ、責任を問われるのは加害者ではなく、被害者である女性だ。

加えて、警察は性暴力事件に対し良く言っても無関心、はっきり言えば消極的である。先に述べたコルカタで起きた女性研修医の強姦・殺人事件では、事件から約1ヶ月後に警官が証拠の揉み消し、虚偽の証言などの容疑で逮捕されている。警察の不手際あるいは故意の改ざんなどにより、裁判所が事件を不適法として内容を審理せず、却下することもある。性暴力事件における有罪判決の少なさは、新たな事件を助長することにもなり得る深刻な問題だ。

政府の対応はどうだろうか。コルカタの事件に対する市民からの抗議を受けて、西ベンガル州政府は警察による巡回を増やす、性暴力を非難する声明を発表するなどした。しかし、問題の根本的解決につながる具体的な措置は未だ講じられていない。市民が訴えているのは、警察が性暴力事件の捜査を適切かつ徹底的に行うこと。加害者を法律で裁くこと。この2点を州政府が約束することである。

西ベンガル州政府は性暴力事件に対する法的枠組みを改善することを目的として、処罰の厳格化と捜査の迅速化などを含めた法律を2024年9月に制定している。しかし、州政府によるこうした法整備の有効性には疑問の声が上がっている。西ベンガル州政府はここ数年、性暴力の被害者に医療・法律・心理面での支援を行うための仕組みを導入してきた。2019年に定められた「Guidelines for the Child Safety from Sexual Abuse in the School」(学校で児童を性的虐待から守るためのガイドライン)もそのひとつである。こうした動きがありながらも、同州では未だ性暴力事件が多発している。制度だけ変えて実態が伴っていないのだ。

性暴力はいち個人の問題ではなく、州ひいては国全体の公的信用と国民の安全に関わる問題である。性暴力の蔓延と容認は女性に恐怖と不安を与えるだけではなく、社会的・経済的活動をも妨げる。路上、公共交通機関、職場、学校、これら至る場所で事件が起きているからだ。そして、政府や警察がこうした問題を真剣に取り扱わないことを、国民は皆知っている。

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